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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3523号 判決 1992年5月26日

大阪市中央区玉造一丁目一番三〇号

原告

森下仁丹株式会社

右代表者代表取締役

岡崎康雄

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

右輔佐人弁理士

皆崎英士

山本宗雄

静岡県富士宮市大中里一〇三五番地

被告

富士カプセル株式会社

右代表者代表取締役

加藤咲郎

右訴訟代理人弁護士

水谷直樹

右輔佐人弁理士

南孝夫

川上宣男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙目録一記載の方法を使用して、別紙目録二記載の物件を製造、販売してはならない。

二  被告は、別紙目録三記載の装置を使用して、別紙目録二記載の物件を製造、販売してはならない。

三  被告は別紙目録二記載の物件及び別紙目録三記載の装置を廃棄せよ。

四  被告は原告に対し金六〇〇〇万円及びこれに対する平成三年五月二一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は医薬品・医薬部外品・医療用具及び食品等の製造販売を業とする株式会社、被告は医薬品・医薬部外品等の製造販売を業とする株式会社である。

2  原告は左記の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲記載1の発明を「本件発明A」、同2の発明を「本件発明B」という)を有している。(別添特許公報参照)

発明の名称 超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造法とその製造装置

出願日 昭和五四年九月二六日(特願昭五四-一二二六九五号)

出願公告日 昭和六二年一月一二日(特公昭六二-一二八八号)

設定登録日 昭和六二年九月七日

登録番号 特許第一三九八八三六号

特許請求の範囲

「1 還流する凝固液中に複数の二重ノズルの先端より夫々カプセル充填物質、及び被膜物質を押し出してカプセルを量産的に製造する方法において、圧力により凝固液の流速を強制的に高速化し、該凝固液中に複数の二重ノズルの先端より押し出されるカプセル充填物質38、及び被膜物質39のジエット流を微小な液滴とすることを特徴とする、超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造法。

2  カプセル充填物質貯蔵タンク1がポンプ2を介して接続されているカプセル充填物質チャムバー4と、カプセル被膜物質貯蔵タンク5がポンプ6を介して接続されているカプセル被膜物質分液チャムバー8と、カプセル凝固液貯蔵タンク9がポンプ10及び熱交換器11を介して接続されているカプセル凝固液分液チャムバー13、及びカプセル凝固液分液チャムバー13に接続したホッパー部14とから構成され、前記カプセル充填物質分液チャムバー4内には複数のカプセル充填ノズル15、又カプセル被膜物質分液チャムバー8内にはカプセル充填ノズル15に対応した数のカプセル被膜物質ノズル16、凝固液分液チャムバー13内には上記カプセル被膜物質ノズル16に対応した数のカプセル形成管17を夫々設け、カプセル被膜物質分液チャムバー8内ではカプセル被膜物質ノズル16はカプセル充填物質ノズル15の外側を囲み、該ノズル16の下端部はカプセル凝固液分液チャムバー13内でカプセル形成管17の上端部に臨ましめられ、またカプセル形成管17の下端部をホッパー14内に開口させると共に、ホッパー14の下端部を凝固液貯蔵タンク9内に臨ましめ、該タンク9にはカプセルと凝固液の分離装置を設けてなることを特徴とする超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造装置。

3  カプセル充填物質貯蔵タンク1がポンプ2を介して接続されているカプセル充填物質チャムバー4と、カプセル被膜物質貯蔵タンク5がポンプ6を介して接続されているカプセル被膜物質分液チャムバー8と、カプセル凝固液貯蔵タンク9がポンプ10及び熱交換器11を介して接続されているカプセル凝固液分液チャムバー13、及びカプセル凝固液分液チャムバー13に接続したホッパー部14とから構成され、前記カプセル充填物質分液チャムバー4内には複数のカプセル充填ノズル15、又カプセル被膜物質分液チャムバー8内にはカプセル充填ノズル15に対応した数のカプセル被膜物質ノズル16、凝固液分液チャムバー13内には上記カプセル被膜物質ノズル16に対応した数のカプセル形成管17を夫々設け、カプセル被膜物質分液チャムバー8内ではカプセル被膜物質ノズル16はカプセル充填物質ノズル15の外側を囲み、該ノズル16の下端部はカプセル凝固液分液チャムバー13内でカプセル形成管17の上端部に臨ましめられ、また頂部をチャムバー外部に設置した振動板33に接続した振動棒32をカプセル充填物質ノズル15内に挿入し、さらにカプセル形成管17の下端部をホッパー14内に開口させると共に、ホッパー14の下端部を凝固液貯蔵タンク9内に臨ましめ、該タンク9にはカプセルと凝固液の分離装置を設けてなることを特徴とする超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造装置。」

3  本件A発明の構成要件は分説すると次のとおりである。

<1> 還流する凝固液中に複数の二重ノズルの先端より夫々カプセル充填物質、及び被膜物質を押し出してカプセルを量産的に製造する方法であること。

<2> 圧力により凝固液の流速を強制的に高速化すること。

<3> 該凝固液中に複数の二重ノズルの先端より押し出されるカプセル充填物質38、及び被膜物質39のジエット流を微小な液滴とすること。

4  本件B発明の構成要件は分説すると次のとおりである。

<1> カプセル充填物質貯蔵タンク1がポンプ2を介して接続されているカプセル充填物質チャムバー4があること。

<2> カプセル被膜物質貯蔵タンク5がポンプ6を介して接続されているカプセル被膜物質分液チャムバー8があること。

<3> カプセル凝固液貯蔵タンク9がポンプ10及び熱交換器11を介して接続されているカプセル凝固液分液チャムバー13があること。

<4> カプセル凝固液分液チャムバー13に接続したホッパー部14があること。

<5> カプセル充填物質分液チャムバー4内には複数のカプセル充填ノズル15があること。

<6> カプセル被膜物質分液チャムバー8内にはカプセル充填物質ノズル15に対応した数のカプセル被膜物質ノズル16があること。

<7> カプセル凝固液分液チャムバー13内には上記カプセル被膜物質ノズル16に対応した数のカプセル形成管17があること。

<8> カプセル被膜物質分液チャムバー8内ではカプセル被膜物質ノズル16はカプセル充填物質ノズル15の外側を囲むこと。

<9> カプセル被膜物質ノズル16の下端部はカプセル凝固液分液チャムバー13内でカプセル形成管17の上端部に臨ましめられること。

<10> カプセル形成管17の下端部をホッパー14内に開口させること。

<11> ホッパー14の下端部をカプセル凝固液貯蔵タンク9内に臨ましめること。

<12> カプセル凝固液貯蔵タンク9にはカプセルと凝固液の分離装置を設けること。

<13> カプセル製造装置であること。

5  本件A発明及び本件B発明の目的及び作用効果は次のとおりである。

従来の継目なし充填カプセル製造方法及びその装置では継目なしの超微小カプセルと呼ばれる直径が〇・五mm程度のものを量産することは不可能であった。

本件A発明は、流速を高速化させた被膜物質凝固液の流れの中にカプセル充填物質及び被膜物質の複合ジェットを放出するとき各液間相互に作用する界面張力によって球滴状のカプセルが形成され、被膜物質凝固液で凝固した超微小な継目なし充填カプセルを連続的に量産することを可能にするものである。

本件B発明は、右方法を実施するための装置である。

6  被告の製法は別紙目録一記載のとおりであって、還流する被膜物質の凝固液中に複数の二重ノズルの内側に定量ポンプにより加圧した食品添加物などの疎水性内容物を、複数の二重ノズルの外側に定量ポンプで加圧したゼラチン水溶液を押し出し、平均秒速二〇cm以上で同心円柱状のジエット流を下降させて微小な液滴にして、これを被膜物質の凝固液で凝固せしめて、球形状の継目なしの超微小な充填カプセルを製造するものである。

以上のとおり、本件A発明の構成要件と別紙目録一記載の方法を対比すると、別紙目録一記載の方法が本件A発明の構成要件を全て充足しており、別紙目録一記載の方法が本件A発明の技術的範囲に属することは明らかである。

7  被告使用の装置は別紙目録三記載のとおりであって、本件B発明の構成要件と別紙目録三記載の装置を対比すると、別紙目録三記載の装置が本件B発明の構成要件を全て充足しており、別紙目録三記載の装置が本件B発明の技術的範囲に属することは明らかである。

8  被告は遅くとも平成二年五月、別紙目録二記載の物件を「ソフトシームレスカプセル(Seamless Capusules)」なる商品名で販売開始し、その販売単価は一kg当たり一万円であって、平成二年五月から平成三年四月までの総販売数量は二〇トンを上回るのであって、総販売金額は二億円を下回らない。

そして、被告が右超微小カプセルの製造販売により受けた利益は総販売金額の三〇%を下回らない。

したがって、平成二年五月から平成三年四月までの間に被告が別紙物件目録二記載の物件を販売することによって原告が受けた損害は、特許法一〇二条一項に基づいて、六〇〇〇万円を下回らないと推定される。

9  よって、原告は被告に対し、別紙物件目録一記載の方法及び別紙目録三記載の装置を使用して別紙目録二記載の物件を製造・販売することの禁止及び被告所有にかかる同物件及び同装置の廃棄並びに不法行為に基づく損害賠償として右損害金六〇〇〇万円及びこれに対する平成三年五月二一日(訴状送達日の翌日)から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実中、被告に関する部分は認める。その余は知らない。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実は知らない。

4  請求原因4の事実は知らない。

5  請求原因5の事実は否認する。

6  請求原因6の事実は否認する。

7  請求原因7の事実は否認する。

8  請求原因8の事実は否認する。

9  原告は、「従来の継目なし充填カプセル製造方法及びその装置では継目なしの超微小カプセルと呼ばれる直径が〇・五mm程度のものを量産することは不可能であった」と主張するが、右主張は事実に相違する。原告が超微小カプセルという直径が〇・五mm程度のものを製造することは、本件発明AないしBの方法・装置によらずとも実用上何ら問題なく可能である。本訴請求は、原告の本件特許にかかる方法ないし装置が、右目的達成のための唯一の方法ないし装置であるとの前提に立つものと考えられるが、原告の主張は、右前提において既に失当である。

理由

原告が本件特許権を有することは当事者間に争いがないけれども、被告が別紙目録一記載の方法を使用して別紙目録二記載の物件を製造している事実も、別紙目録三記載の装置を使用して別紙目録二記載の物件を製造している事実も、これを認めるに足りる証拠がない。

なお、原告は右主張事実立証のために、

(1)  被告本社工場に設置されている超微小カプセル製造装置及び同装置を使用して超微小カプセルを製造する工程の検証の申請

(2)  民事訴訟法三一二条一号に基づき、乙第四号証に記載の継目なしカプセル製造機の「基本構想図」及び「装置設計図面」の提出命令の申立をするが、本件全証拠を検討し、原告の全主張を斟酌しても、被告が営業秘密(ノウハウ)を理由に検証に反対している本件において、被告本社工場に設置の製造装置の開示を被告に強制する結果をもたらす右検証を採用すべき相当な理由を見出し難いし、また、乙第四号証に記載の「基本構想図」及び「装置設計図面」が民事訴訟法三一二条一号所定の文書に該当すると認めることもできない。

以上のとおりであり、原告の請求は理由がないから棄却せざるをえない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 辻川靖夫 裁判官長井浩一は転補のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官 庵前重和)

目録一

定量ポンプにより高速化して還流するマイナス一〇℃以上で粘度一〇〇〇センチポイズ以下流動性を有するゼラチン凝固液中に、複数の二重ノズルの内側ノズルに定量ポンプにより加圧した疎水性内容物を、その外側ノズルに定量ポンプにより加圧したゼラチン水溶液を供給し二重ノズルの先端から押し出し、平均秒速二〇cm以上で同心円柱状の複合ジェット流として下降させて、連続的な微小液滴にしてこれを回収する方法。

目録二

直径〇・五mmないし直径二mmの球型の疎水性内容物を充填した継目なしカプセル。

目録三

密閉室は最上部、中央部および最下部の三層からなり、最上部の密閉室は定量ポンプを介して疎水性内容物用タンクと接続し、かつ複数本のパイプが最上部密閉室の底部および中央部密閉室を貫通して最下部の密閉室に接続し、それぞれのパイプの上端は最上部密閉室内部に開口し、それぞれのパイプの下端は最下部の密閉室内部に開口し、それぞれのパイプは二重ノズルの内側ノズルを形成し、

中央部密閉室はゼラチン水溶液用タンクと容量ポンプを介して接続し、かつ最上部密閉室からのパイプの一部を覆い包むパイプが中央部密閉室の底部を貫通して最下部密閉室に接続し、そのパイプの上端は中央部密閉室内に開口し、そのパイプの下端は最下部の密閉室内部に開口し、それぞれのパイプは二重ノズルの外側ノズルを形成し、

最下部密閉室はゼラチン凝固液用タンクと定量ポンプおよび熱交換器を介して接続し、それぞれの二重ノズルに対応してカプセル形成管が配置され、それぞれのカプセル形成管の上端は二重ノズルのノズル口に隙間を空けて臨み、カプセル形成管の下端は集液器中に開口し、

集液器はゼラチン凝固液用タンクに臨んで開口し、集液器とゼラチン凝固液用タンクとの間にはカプセル分離手段が存在するカプセル製造装置。

<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告

<12>特許公報(B2) 昭62-1288

<51>Int.Cl.4B 01 J 13/02 識別記号 庁内整理番号 H-8317-4G <24><44>公告 昭和62年(1987)1月12日

発明の数 3

<54>発明の名称 超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造法とその製造装置

<21>特願 昭54-122695 <65>公開 昭56-49154

<22>出願 昭54(1979)9月26日 <43>昭56(1981)5月2日

<72>発明者 森下孝 西宮市苦楽園5番町1番80号

<72>発明者 春原秀基 大阪市阿倍野区阪南町4丁目18番25号

<72>発明者 田上昭八 尼崎市上食満字城の内71の10

<71>出願人 森下仁丹株式会社 大阪市東区玉造1丁目1番30号

<74>代理人 弁理士 永田秀男

審査官 岡田万里

<56>参考文献 特公 昭47-43432(JP、B1) 特公 昭51-8875(JP、B2)

<57>特許請求の範囲

1 還流する凝固液中に複数の二重ノズルの先端より夫々カプセル充填物質、及び被膜物質を押し出してカプセルを量産的に製造する方法において、圧力により凝固液の流速を強制的に高速化し、該凝固液中に複数の二重ノズルの先端より押し出されるカプセル充填物質38、及び被膜物質39のジエツト流を微小な液滴とすることを特徴とする、超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造法。

2 カプセル充填物質貯蔵タンク1がポンプ2を介して接続されているカプセル充填物質チヤムバー  、カプセル被膜物質貯蔵タンク5がポンプ6を介して接続されているカプセル被膜物質分液チヤムバー8と、カプセル凝固液貯蔵タンク9がポンプ10及び熱交換器11を介して接続されているカプセル凝固液分液チヤムバー13、及びカプセル凝固液分液チヤムバー13に接続したホツパー部14とから構成され、前記カプセル充填物質分液チヤムバー4内には複数のカプセル充填ノズル15、又カプセル被膜物質分液チヤムバー8内にはカプセル充填ノブル15に対応した数のカプセル被膜物質ノブル16、凝固液分液チヤムバー13内には上記カプセル被膜物質ノブル16に対応した数のカプセル形成管17を夫々設け、カプセル被膜物質分液チヤムバー8内ではカプセル被膜物質ノブル16はカプセル充填物質ノブル15の外側を囲み、該ノブル16の下端部はカプセル凝固液分液チヤムバー13内でカプセル形成管17の上端部に臨ましめられ、またカプセル形成管17の下端部をホツパー14内に開口させると共に、ホツパー14の下端部を凝固液貯蔵タンク9内に臨ましめ、該タンク9にはカプセルと凝固液の分離装置を設けてなることを特徴とする超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造装置。

3 カプセル充填物質貯蔵タンク1がポンプ2を介して接続されているカプセル充填物質チヤムバー4と、カプセル被膜物質貯蔵タンク5がポンプ6を介して接続されているカプセル被膜物質分液チヤムバー8と、カプセル凝固液貯蔵タンク9がポンプ10及び熱交換器11を介して接続されているカプセル凝固液分液チヤムバー13、及びカプセル凝固液分液チヤムバー13に接続したホツパー部14とから構成され、前記カプセル充填物質分液チヤムバー4内には複数のカプセル充填ノブル15、又カプセル被膜物質分液チヤムバー8内にはカプセル充填ノブル15に対応した数のカプセル被膜物質ノズル16、凝固液分液チヤムバー13内には上記カプセル被膜物質ノブル16に対応した数のカプセル形成管17を夫々設け、カプセル被膜物質分液チヤムバー8内ではカプセル被膜物質ノブル16はカプセル充填物質ノブル15の外側を囲み、該ノズル16の下端部はカプセル凝固液分液チヤムバー13内でカプセル形成管17の上端部に臨ましめられ、また頂部をチヤムバー外部に設置した振動板33に接続した振動棒32をカプセル充填物質ノブル15内に挿入し、さらにカプセル形成管17の下端部をホツパー14内に開口させると共に、ホツパー14の下端部を凝固液貯蔵タンク9内に臨ましめ、該タンク9にはカプセルと凝固液の分離装置を設けてなることを特徴とする超微小カプセルを連続的に量産できるカプセル製造装置.

発明の詳細な説明

本発明は、圧力により流れを高速化した凝固液中に、カプセル充填物質、及び被膜物質を押し出すことにより超微小カプセルを製造方法とその装置に関するものである.

従来のカプセル製造装置では、例えば特開昭51-8875公報に記載のように、カプセルの凝固液の循環回路の全体が開放されており、それ故凝固液の流速の調整に限界があつたため、超微小カプセルと呼ばれる径が1mm~50μ程度のものを連続的に量産することは不可能であつた.

本願発明者等は、従来のカプセル製造装置につき種々検討を重ね、ここに超微小カプセルを素晴らしい速度で、連続容易に大量に製造し得る方法と装置を開発した.

本発明に係るカプセル製造装置は、カプセルの形成管等が設けられているチヤムバー内が密閉されているため、凝固液の流速は凝固液供給ポンプの吐出能力で決定することができる特徴を有している。即ち、ポンプの吐出量によつて凝固液の流速を高速化させることができ、それを従来の装置では到底のぞめなかつた速さにすることができる.これは形成されるカプセルの粒径に影響し、結果的に非常に微小なカプセルを得ることが可能となつた.

また、もう一つの特徴は凝固液の流れを高速化することに加え、複数のノブルとカプセル形成管を用いることによつて、一挙に極めて多量の超微小カプセルの製造を可能にしたことである。

本発明は、かかる微小カプセルを得る方法及び装置を提供することを目的とする.

上記目的を達成するため、本発明は還流する凝固液中に複数の二重ノブルの先端より夫々カプセル充填物質、及び被膜物質を押し出してカプセルを量産的に製造する方法において、圧力により凝固液の流速を強制的に高速化し、該凝固液中に複数の二重ノブルの先端より押し出されるカプセル充填物質、及び被膜物質のジエツト流を微小な液滴としてカプセルを製造するものである。

また、上記方法を実施するための装置は、カプセル充填物質貯蔵タンクがポンプを介して接続されているカプセル充填物質チヤムバーと、カプセル被膜物質貯蔵タンクがポンプを介して接続されているカプセル被膜物質分液チヤムバーと、カプセル凝固液貯蔵タンクがポンプ及び熱交換器を介して接続されているカプセル凝固液分液チヤムバー、及びカプセル凝固液分液チヤムバーに接続したホツパー部とから構成され、前記カプセル充填物質分液チヤムバー内には複数のカプセル充填ノブル、又カプセル被膜物質分液チヤムバー内にはカプセル充填ノブルに対応した数のカプセル被膜物質ノブル、凝固液分液チヤムバー内には上記カプセル被膜物質ノブルに対応した数のカプセル形成管を夫々設け、カプセル被膜物質分液チヤムバー内ではカプセル被膜物質ノブルはカプセル充填物質ノブルの外側を囲み、該ノブルの下端部はカプセル凝固液分液チヤムバー内でカプセル形成管の上端部に臨ましめられ、またカプセル形成管の下端部をホツパー内に開口させると共に、ホツパーの下端部を凝固液貯蔵タンク内に臨ましめ、該タンクにはカプセルと凝固液の分離装置を設けてなるものである.

以下、本発明に係る装置につき添付図面を参照しながら、その構成を説明する。

本装置は第1図に示すように、カプセル充填物質貯蔵タンク1が可変速ギヤー付定量ポンプ2を介してパイプ3によつて接続されているところの上面に蓋4aと導入口4bを備えたカプセル充填物質チヤムバー4と、カプセル皮膜物質貯蔵タンク5が可変速ギヤー定量ポンプ6を介してパイプ7によつて接続されている導入口8aを備えたカプセル皮膜物質分液チヤムバー8と、凝固液貯蔵タンク9に可変速ギヤー付定量ポンプ10及び凝固液の温度を制御する熱交換器11を介してパイプ12によつて接続される導入口13aを備えた閉回路の凝固液分液チヤムバー13と、ホツパー部14とから構成されており、これらは各々分離できるようになつている。そして前記カプセル充填物質分液チヤムバー4には、カプセル皮膜物質分液チヤムバー8にまで、底部を貫通させて6列に、そして1列には6本宛即ち計36本のカプセル充填物質ノブル15が配置されており、その下方に位置するカプセル皮膜物質分液チヤムバー8には、カプセル充填物質ノブル15と同様、同列のカプセル皮膜物質ノズル16が、上記カプセル充填物質15の下方を夫々覆い包むように配置されていて、このカプセル皮膜物質ノブル16の夫々の下端部は底部を貫通して、更にその下方にある閉回路のカプセル凝固液分液チヤムバー13内にまで入りこみ臨むように設けられている.そして、この閉回路の凝固液分液チヤムバー13には、カプセル皮膜物質ノブル16と同数、同列のカプセル形成管17が配置されていて、このカプセル形成管17の夫々の頂面開口部には上記カプセル皮膜物質ノブル16の下端部が、夫々位置するように設けられている.このように連続して、つらなる36本のカプセル充填物質ノブル15、カプセル皮膜物質ノブル16、及びカプセル形成管17の夫々は夫々の径の中心が同一線上にあるように配装されている.そして更に、カプセル形成管17の夫々の下端部は底部を貫通してホツパー14内に開口せしめられており、このホツパー14の下端開口部14aはカプセル凝固液貯蔵タンク9に臨ましめてある。次に、このカプセル凝固液貯蔵タンク9にはカプセルと凝固液とを分離するネツト状の分離コンベア19が取り付けられている.18はスクレーパーである.そしてネツト状分離コンベア19で搬送中に凝固液と分離されたカプセル21の収納容器20がスクレーパー18の下に設けられている.この場合ネツト状の分離コンベア19は製造されるカプセル21の大きさによつて容易にネツトのメツシユの交換でき又コンベア19の速度を変速することによつて容器に生産量の変動にも応じられるようにしてある.

以上本発明に係るカプセルの製造装置の構成を述べたが、この装置の1部にアタツチメント式にとりつけられるところの振動装置について以下説明することにする.

この装置は、カプセル充填物質に上下方向の振動与えてカプセルをつくる場合にのみ用いる。第4図についてこれを説明するとこの場合は、カプセル充填物質分液チヤムバー4の蓋4aの代りに、カプセル充填物質のノブル15と同じ配列、個数の孔を設けた蓋30を用いるのである.この蓋30に設けられた孔31にはカプセル充填物質を振動せしめる振動棒32を貫通させ、頂部は振動板33に取り付け下部はカプセル充填物質ノブル15内に夫々挿入せしめる.この振動板33には振動機34が取り付けられており、振動棒32の振動の振巾、及び振動数はカプセルの大きさ及び1秒間当りの必要発生個数に応じて調節できるようにしてある.4bはカプセル充填物質の導入口である.第5図に示すものは振動棒の部分を部分的に拡大して示したもので、カプセル充填物質ノブル15内に下端部が挿入されている振動棒32の上下方向の動きに伴う充填物質ノブル15内より充填物質の漏出を防止するための構造と振動棒32とカプセル充填物質ノブル15との位置関係を示したものである.図中35はシール材36の移動を防ぐためのカバーである.

この振動装置は前述せる如く本装置においてカプセル充填物質に振動を与えてカプセルを作る場合にのみ使用するものである.

次に、本発明に係るカプセル製造装置を用いて目的とする超微小カプセルを連続的に量産する方法を1実施例によつて以下詳細に説明する.

本例では、カプセル充填物質として精製植物油、カプセル皮膜物質としてゼラチン20%、ソルビトール2.2%、精製水77.8%の混合溶液を用い、凝固液としては流動パラフィンを用いた.先ず前準備として、カプセル充填物質分液チヤムバー4、及びカプセル皮膜物質分液室8と、カプセル凝固液分液チヤムバー13とを分離し、次に凝固液の循環流量をカプセル皮膜物質チヤムバー8の上部フランジよりオーバーフローしない程度にポンプ10の吐出量を調節する.次に凝固液たる流動パラフィンを熱交換器11より所定の温度になるようにセツトしておく.

以上の前操作を完了后、カプセル充填物質タンク1に精製植物油を入れ、カプセル皮膜物質タンク5にはゼラチン20%、ソルビトール2.2%、精製水77.8%の混合溶液を入れる.この場合カプセル充填物質たる精製植物油は、予め所定の吐出量にセツトされた定量ポンプ2によつてパイプ3内を給送せしめてカプセル充填物質分液チヤムバー4内に導入口4bより導入する。次に皮膜物質たるゼラチン20%、ソルビトール2.2%、精製油77.8%の混合溶液も予め所定の吐出量にセットした定量ポンプよりパイプ7内に給送せしめて、カプセル皮膜物質分液チヤムバー8へ導入口8aより導入する。ここでカプセル充填物質分液チヤムバー4とカプセル皮膜物質分液チヤムバー8とが夫々の液で充満し、カプセル皮膜物質ノズル16より液が吐出し始めたら、この時点で閉回路のカプセル凝固液分液チヤムバー13に取り付ける。この場合はカプセル充填物質ノズル15、カプセル皮膜物質ノズル16、カプセル形成管17は第2図に示す如くに配装する.次にカプセル形成管17を流下するところの凝固液である流動パラフインの流速を所定の速さにするためにポンプ10の吐出量を調節する。即ち、凝固液分液チヤムバー13は閉回路であるから、流動パラフインの流速はポンプ10の吐出量を変えることによつて自在に、その流速を変えることができるのである。カプセル充填物質チヤムバー4内に導入せしめた充填物質たる精製植物油は36本のカプセル充填物質ノズル15を約10m/secの速度で流下し、又カプセル充填物質分液チヤムバー8に導入せしめられている皮膜物質たるゼラチン20%、ソルビトール2.2%、精製水77.8%の混液も36本の充填物質ノズル16との間を約10m/sec速度で流下してこの両液はカプセル皮膜物質ノズル16の下端部で接合し、同心円柱状の複合ジエツトとしてカプセル形成管17内の流動パラフインの下降流中に放出される。ここに放出された複合ジエツト流は、下降しながら凝固液たる流動パラフイン、皮膜物質たるゼラチン20%、ソルビトール2.2%、精製水77.8%の混液及びカプセル充填物質たる精製植物油の相互間に作用する界面張力によつて除々にくびれを生じ、略々球滴状のカプセル21が形成される。そしてこのカプセル21は流動パラフイン中を下降しながら冷却され、ここに目的の完全な球形状の継目なしの超微小な充填カプセルを得ることができる.本装置では36本の、充填、皮膜のノズルと36本の形成管によつて一挙に、これを行うことが可能なのである。前記の如くして形成された継目なしの超微小カプセルは、流動パラフインと共にホツパー14内に流下し、集合させられてホツパー14の排出口14aより下方のネツト状の分離コンベア19上に落下する。このネツト状のコンベア19に用いているネツトの網目はカプセル21の直径よりも小さく、従つてカプセル21は網目を通過せずにネツトにのつて搬送されスクレーパー18によつてネツトから、かきとられ、カプセル収納容器20中に収納される。凝固液たる流動パラフインは網目より下の凝固液貯蔵タンク9に落下し再び循環せしめられて使用される。

以上説明せる方法は本装置を用いて目的のカプセルを得る方法で、振動を充填物質に与えないで行う方法である.

次に本装置を用いて充填物質に振動を与えて製造する方法を以下説明する.この方法によるときは、前記本装置の構成の項で説明せる如き、アタツチメント式の振動装置即ち振動機、振動板、振動棒及びカプセル充填物質分液チヤムバーの蓋4に代えて、充填物質のノズルの数だけの孔を設けた第4図及び第5図に示す如き蓋30及びこれを固定するシール材36をセツトする。次に上記カプセル充填物質の振動を与えないで行う方法と同様に充填物質たる精製植物油を、カプセル充填物質分液チヤムバー4に又、カプセル皮膜物質としてゼラチン20%、ソルビトール2.2%、精製水77.8%の混合溶液を、カプセル皮膜充填物質分液チヤムバー8内に夫々導入し、各チヤムバーが液で充満した后に、これらをカプセル凝固液分液チヤムバー13にとりつける.その后、カプセル形成管17を流下する凝固液の流速を所定の値にポンプ10によつて調節する。次に、カプセルを所定の均一な大きさにするために充填物質たる精製植物油をカプセル充填ノズル15内に挿入されている振動棒32によつて振動せしめる。振動棒32は充填物質ノズル15の内部に1部挿入されているために振動棒32の上下方向の振動によつて充填物質たる精製植物油の充填物質ノズル15内での流れは完全に振動棒32の振動数と一致した振動をするようになる。即ち、充填物質ノズル15から吐出される充填物質たる精製植物油が速くなつたりおそくなつたりする。この速度の変動による効果は、直接皮膜物質たるゼラチン20%、ソルビトール2.2%、精製水77.8%の混液にも影響を与える結果となり振動棒32の振動数と一致したくびれがジエツトに生じ極めて均一なる継目なし充填カプセル21を得ることができる.その後は、前述せる無振動でカプセルを得る方法の場合と全く同じ操作により行う.カプセル粒径が比較的大きい1mm以上の場合、振動を与える方法をとれば、極めて均一な継目なし充填カプセルを得ることができる.次に本装置による実験成績を表に示す.

実験成績

項目 ロツトNo. 1 2 3 4 5

充填物質流量 g/min 6 23.8 795.8 2688 39760

物質流量 g/min 5.2 20.8 697.3 2355 34835

凝固液平均流速 cm/sec 300 300 100 50 50

乾燥後カプセル粒径 50μ 100μ 1π  3π  10π

乾燥後カプセル重量 mg/1ケ 7.2×10-5  5.76×10-4  5.76×10-1  15.5 575.6

充填物質振動数 Hz / / / 100Hz 40Hz

カプセル発生個数/sec 1.73×106  8.64×105  2.88×104  3.6×103  1.44×103

次に本装置の効果を以下列挙する.

(1) 凝固液の流速の調整は、単に定量ポンプのギヤーの変速で行えるので極めて操作が容易でしかも流速を、従来のヘツドで行う方法ではどうしても装置のヘツドで限定されるが、本装置ではこのようなことはなくカプセル凝固液の流速はポンプの吐出能力できまるのでコンパクトである.

(2) 製造可能なカプセルの径は10π ~50μのものを得ることができる.

(3) 皮膜率の自由度、皮膜処方の自由度の大きい超微小カプセルを製造することが可能である.

(4)  ツチ式でないので生産能率が頗る大である.

(5) 多数のノズルと形成管を有しているので、本例に示す36本のノズルを用いた場合は最高1秒間173万個のカプセル収得数が得られるスピードで、しかも、超微小のカプセルを連続して量産可能である.

図面の簡単な説明

第1図は、本発明に係る超微小カプセルの製造装置の製造原理図である.第2図は充填物質と皮膜物質とがカプセル形成管の下降流中で球滴状に形成されてゆく状態を示す部分拡大図である。第3図は1実施例を示したもので蓋を除いた充填物質分液チヤムバー内に36本のノズルが配列されている状態を示す平面図である.第4図と第5図とは充填物質に振動を与えてカプセルを製造する場合に、本装置の一部に、アタツチメント式にとりつけるところの振動装置を示したもので、第4図は充填物質分液チヤムバー内に設けられた充填物質ノズルの夫々に、振動機を備えた振動板に接続された振動棒が、夫々挿入されている状態を示す部分断面図で、第5図は振動棒の取付け部分の構造を拡大して示した説明図である.

第1、第2、第3図において、1……カプセル充填物質貯蔵タンク、2……可変速ギヤー付定量ポンプ、3……パイプ、4……カプセル充填物質チヤムバー、5……カプセル皮膜物質貯蔵タンク、6……可変速ギヤー定量ポンプ、7……パイプ、8……カプセル被膜物質分液チヤムバー、9……凝固液貯蔵タンク、10……可変速ギヤー付定量ポンプ、11……熱交換器、12……パイプ、13……凝固液分液チヤムバー、14……ホツパー部、15……カプセル充填物質ノズル、16……カプセル皮膜物質ノズル、17……カプセル形成管、18……スクレーパー、19……ネツト状の分離コンベア、20……カプセル収納容器、第4図及び第5図において、30……孔を設けた蓋、31……蓋に設けた孔、32……振動棒、33……振動板、34……振動機、35……カバー、36……シール材。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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特許公報

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